さて、この記録も最終章です。ついに決着、判決編です。
◇いよいよ判決へ
開廷直後、
裁判長が被告2名に中央の証言台に立つように指示します。
神妙な表情で証言台前に立つ二人。弁護側・検察側双方に空気が張り詰めていくのがわかります。むろん傍聴席も同様の空気に包まれます。
裁判官が高らかに読み上げます。
主文 「被告人AB両名を懲役3年に処す。5年間その執行を猶予する。」
宣言した後、理由を述べるから被告人は座るように促します。
理由 「強盗の共同正犯は認められる。確かに一般的にイメージされる強盗とまでは言えないかもしれないが、被告Aが被害者の財布からお金を奪う場面において、間髪入れず被告Bが被害者の背中から羽交い絞めにしていることから、この瞬間に強盗共同正犯の要件が成立とした断じることができる。」
「また被告ABの罪の重さが3年と同じなのは、携帯電話を破損させた被告Aのほうが若干罪の重さが増すように感じられるが、被告Bの路上の被害者に馬乗りになった行為は重大な結果を招きかねない危険性があり、ABは同年数懲役刑の判決となった。」
「とはいっても、一定の被害弁償をしていること、本人たちもじゅうぶんに反省していること、親御さんらの献身的な協力が期待できることなどから、執行猶予を付与するに至る」など理由に述べた。
理由を述べた後、閉廷を宣言。その瞬間、眉ひとつ動かさず淡々と机上の書類を整理する女性検事がいました。不覚なのでしょうか。
一方で表情が緩む弁護側。両者が対照的な構図になりました。被告人の表情は終始硬め、厳粛な態度を保っていました。
◇個人的見解
元々この事件は、夜更けの歓楽街で若者同志の些細なやり取りから起きた事案です。若い彼らの酔いに任せた軽はずみな行動により、自らの人生のほんの一部分を狂わせました。しかし、反省の色も濃く、再起は十分にかなうものと思いました。だからこその執行猶予判決で、その趣旨はじゅうぶんに理解することができました。
21~22歳の普通に見える若者を、6年も7年も檻の中に入れてしまうのは、日本社会として実際のところ損失です。その分働いて社会に貢献してほしいと願います。
検察側の彼女たちも必死になって戦いましたが、強盗致傷ありきの7年の求刑はやはりやりすぎなようにも思えます。
いずれにしても、一般的な社会通念を通じて裁いた裁判員たちのこの判決は、じゅうぶんに吟味されたものと評価に値します。
◇おわりに
街中の路上で起きた比較的小さな事件であっても、検察、弁護士、裁判長、裁判員が事件当事者の人生そのものに真摯に向き合い、一応の決着を見たことはドラマのような見応えがありました。
今回の事案は、殺人事件のような重大事件ではないですが、普段生活している私たちがいつ路上で遭遇してもおかしくない、いわば日常と隣り合わせのリアルなトラブルだけに、わたしも同事案についつい没入してしまいました。
また、初公判から判決までを追っかけましたが、時間的にも拘束されけっこう疲れる作業です。リタイアされている皆様も時間があればトライしてみてください。
これからも折を見て、裁判所に出かけて、傍聴の記録を続けていこうかと思います。
4回に分けた長い傍聴記を読んでいただきましてありがとうございました。